インターネットでの公開にあたって

池田敏雄(元富士通・専務)は、日本のコンピュータ産業の育成に貢献した中心人物の一人であり、同時に熱烈な囲碁のファンでもありました。

呉清源氏と対局する著者

当時技術部長であった池田は、大阪万博の担当を兼務すると、万博会場でのイベントとして、コンピュータに来場者と碁を打たせることを考えました。しかし、これはすぐに無理なことが分かりました。コンピュータに碁を打たせるには、まずルールが完全に論理的に作られていなければなりません。

呉清源氏と林海峰氏を紹介する著者(大阪万国博にて)

池田は囲碁のルールを研究して、当時の「日本棋院囲碁規約」が、必ずしも論理的に整備したものではなく、徳川時代からの慣習を整理したに過ぎないものであること、日本と中国のルールが時折結果が異なることを、そして、これを論理的で、且つ、日中の碁に結果の相違が起こらないようなルールが存在することを発見しました。

池田の夢は、囲碁の国際化でした。囲碁は「手談」。この素晴らしいゲームを何とか世界中に広めたい。それには欧米の人たちにも納得のいく論理的で、中国の人とも同じように対局できる、国際ルールが必要です。

池田は、呉清源九段、林海峰九段、宮本直毅八段(当時)らの協力を受け、これまでの資料を調べ直し、「囲碁新潮」に1年間「囲碁ルールについて」を連載しました。(本ページの凡例参照)

現在では「日本囲碁規約」によって、この中で「日本ルールの欠陥」として指摘された不備の大半は解消しましたが、池田がこの研究によって行った、囲碁ルールの研究法は今でも活きています。

富士通(株)は、この池田の「囲碁の国際化」の夢を富士通杯として実現しています。この富士通杯が契機となって、囲碁の国際化が進み、今日では多くの国際棋戦が各国で主催されています。
「オリンピックに囲碁を!」という話も聞きます。今日こそ、真の囲碁の国際化のために、ルールから考えることが必要でしょう。池田のルール研究は今なお新しく、国際的なルールの検討に当たっては、公正に議論を進めるための良き手引書になると信じています。

池田敏雄未亡人静様のご了解を頂き、本ホームページでその全文を公開します。

1998.3.26 富士通 (株)